農業IoT関連の調査をする中で「動物福祉」という用語に出会った。動物愛護だけの観点ではなく、幅広く動物を保護(protection)の観点で、各国での取り組みがAnimal Protection Index(API)により評価されている。APIはAランクからGランクまであり、日本はDランクにある。Aランクとされる国は、英国、スイス、オーストリアおよびニュージーランドである。ランク付けのための評価項目は、(1)動物保護の認識、(2)ガバナンス構造とシステム、(3)アニマル・ウエルフェア標準の適用、(4)人道的な教育の提供、および(5)関係者相互のコミュニケーションと意識の向上である。対象はペット、家畜から野生動物まで全ての動物が対象となっている。

さて、農業IoTとアニマル・ウエルフェアの関りは、家畜のトレーサビリティを記録するために各種センサーが利用されているところにある。センサーで収集した情報を蓄積することにより個々の家畜がどのような環境で飼育、肥育されたかが正確に記録されることになる。また、センサー情報をタイムリーに利用することにより、家畜のリアルタイム遠隔管理も可能としている。後者は主に畜産業の省力化、生産性向上に役立てられているが、前者は記録の省力化に加え食の安全、食の付加価値向上に貢献している。

欧米の食肉業界ではマーケットに並ぶ食肉に対して、アニマル・ウエルフェアから見た5段階のランキングが付けられている場合がある。2008年に米国、英国で設立されたGlobal Animal Partnership(GAP)がルールを作り、ルールに従ったGAPランキングが食肉に表示されている。日本には農業生産工程管理(Global Agricultural Practice: GAP)があるがこれとは別物である。

IoTの適用先が持続的に広がっているところに着目したい。

 

藤井伸朗:NTT研究所、NTTグループ会社において通信網オペレーションシステム等の研究開発、国際標準化に従事。2014.7よりサイバー創研に勤務。電子情報通信学会フェロー。